大山で思い描いた道

 大山へ二度目の登山をしてきた。一度目は二十年ほど前にデザイン専門学校へ通っていた頃、友人に誘われ登ったのだ。その登山以来、細々と山登りを趣味とするようになった。
 僕を登山に誘ってくれたS君は当時川崎方面に住んでいて、神奈川の山に慣れ親しんでいた。大山にも何度か登ったことがあったようだ。登山初心者の僕には、S君に任せておけば大丈夫だろうという安心感があった。
 デザイン専門学校に通っていたのは、グラフィックデザイナーとして働きたいという夢を持っていたからだ。S君とデザインのことや将来について話しながら山頂を目指して行った。
 今振り返ると、頂上を目指し山を一歩一歩登ることは、グラフィックデザイナーという職業を夢見てデザインを学んでいた姿と被る気がする。
 二十年という時間の経過のせいか、あるいは僕に記憶力がないのか、大山がどんな山だったのか全く記憶にない。だから備忘録として、大山についての基礎的なデータをここに記しておこうと思う。

 僕の自宅から大山へのアクセスは、電車の場合、新宿から小田急線で伊勢原駅まで行き、そこからバスで登山口まで行く。
 新宿から伊勢原までは約一時間。神奈川・丹沢方面は遠い印象があったが、奥多摩方面へ行くのと時間はそれほど変わらない。伊勢原駅から大山駅バス停へは道が混んでいなければ二十分くらいだろうか。今回は連休中で大山を訪れる車の渋滞にはまり、だいぶ時間がかかった。
 大山の標高は一二五一・七メートル。神奈川県のほぼ中央にあり丹沢大山国定指定公園の一角に位置している。ケーブルカーも走っているし、標高で言えば初心者でも登れる高さだ。そのため散歩気分で大山を訪れる人も沢山いて、高尾山みたいだなと感じた。SNSやユーチューブの影響でアウトドアへの関心もより高まり登山やキャンプも気軽に行く趣味のひとつとして定着している。この二十年で山を取り巻く風景もだいぶ変わった。
 大山は古くから信仰を集めた山で、どのような信仰だったのかというと、「大山詣りは、鳶などの職人たちが巨大な木太刀を江戸から担いで運び、滝で身を清めてから奉納と山頂を目指すといった、他に例をみない庶民参拝」(1)とのことだ。
 山頂には大山阿夫利(あふり)神社の立派な本社が建っている。登山客とお詣り客が列を作り順番に何事かを願っている。僕は参拝客を横目に山頂からの風景を眺めた。人が多く賑わう山頂にいると、登頂したぞという達成感は得られず、早く下山して人の少ない静かなところへ行きたいと思った。

 今回の大山登山は友人Sさんと登った。Sさんは社会人になってから知り合った友人で、かれこれ十年くらいの付き合いになる。僕が山登りに誘って以来、奥多摩の山を一緒に登ってきた。Sさんと山へ登ると、いつも互いの近況を話し合うのだが、今回も僕の現在の取り巻く状況をSさんに話した。
 僕は十九年勤めている会社を辞めようと思っていることをSさんに話した。Sさんに話し、その返答を聞いて決断する訳ではないが、誰かに聞いてもらいたいと思った。話すことで自分の中で結論を出せるのではないかと思ったからだ。
 二十年前に思い描いた夢を完全に実現できた訳ではないが、グラフィックデザインの世界の片隅で生きていくことが出来た。そして今、僕はもう一度自分の道を思い描くために決断をしないといけないなと思った。下山する足は疲れているのにもかかわらず、登るときよりも足早になっていた。

(1)日本遺産 ポータルサイト STORY #024

江戸庶民の信仰と行楽の地
~巨大な木太刀を担いで「大山詣り」~

https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/stories/story024/index.html